東京地方裁判所 昭和62年(ワ)5039号 判決
一 当事者の地位に関する請求の原因1の事実、本件実用新案権の帰属に関する同2の事実及び本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に関する同3の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
二 右争いのない請求の原因3の事実と成立に争いのない甲第二号証によれば、本件考案の構成要件は、請求の原因4のとおりであることが認められる。
三 被告装置の製造、販売に関する請求の原因6の事実及び被告装置の構造に関する請求の原因7の事実も、当事者間に争いがない。
四 そこで、被告装置が、本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 まず、被告装置の構造(一)は本件考案の構成要件(一)を、被告装置の構造(四)は本件考案の構成要件(四)をそれぞれ充足することが明らかであり、この点は、被告もこれを争わない。
2(一) 前記争いのない本件明細書の「実用新案登録請求の範囲」には、本件考案の構成要件(二)に対応するものとして、「各支柱は下部を隣接する支柱と連繋梁によつて連結し」との記載があり、連繋梁が各支柱のそれぞれの下部を連結する部材であることが明らかにされている。また、右登録請求の範囲には、本件考案の構成要件(三)に対応するものとして、「各支柱の上部に脚繋梁を固着し、該脚繋梁の他端を連繋梁に固着し」との記載がある。ところで、右にいう「固着」なる用語は、一般に、「物などがしつかり着いて離れないこと」ないし「別個の部材を離れないように結合すること」という意味を有するから、脚繋梁は、連繋梁と別個の部材であつて、かつ、一端を支柱の上部に、他端を連繋梁に着けて離れなくする部材であると解するのが自然である。そして、前掲甲第二号証によれば、本件明細書の「考案の詳細な説明」及び図面にも、以上の解釈に沿う記載(本件公報二欄四行目から一六行目まで)があるだけで、これに反する記載は存在しないことが認められる。したがつて、本件考案の構成要件(二)は、各支柱の下部を連結する部材として、連繋梁が存在することを、また、本件考案の構成要件(三)は、支柱の上部と脚繋梁とを連結する部材として、それぞれと固着される脚繋梁が存在することを、それぞれ要件としているものと解される。
(二) 前記当事者間に争いがない被告装置の構造(二)及び(三)によれば、被告装置において、支持脚2を連結する部材Jは、水平杆部11と傾斜杆部15とからなる広角状に屈曲された形状を有する一個の部材である。そして、支持脚2を連結するために、この連結部材J二本を交差状に配置し、仮にこの二本のうちの一本をJ1、他の一本をJ2とすれば、一本の支持脚2の中央上部寄りにJ1の傾斜杆部15が、下部にJ2の水平杆部11が、それぞれ取付金具7を介してボルト14によつて固定され、相対する支持脚2の中央上部寄りにJ2の傾斜杆部11が、下部にJ1の水平杆部15が、右と同様に固定されている。そしてJ1の水平杆部11とJ2の水平杆部11は並列として重なり合う部分があり、その並列部分の中央あたりに存在する各長孔13に挿通されたボルト14によつて、連結固定されている。
(三) 右(二)によれば、被告製品には、まず支持脚2の下部を連結する独立の部材としての連繋梁に相当する部材が存在しないこと、さらに、支持脚2の上部と連繋梁とを連結する独立の部材としての脚繋梁に相当する部材が存在しないことがいずれも明らかである。
原告は、二本の連結部材Jの各水平杆部11がボルト14によつて連結固定されていることをもつて、これが本件考案にいう連繋梁に該当するものである旨主張する。しかし、本件考案における連繋梁は、前記のとおり、支柱の下部を直接連結する独立の部材として構成されているものであり、本件明細書中に、これと異なる構成を採りうることを示すような記載はないから、連結部材Jの一部分にすぎない水平杆部11を右連繋梁に当たるとすることはできない。
また、原告は、被告装置の連結部材Jの傾斜杆部15が本件考案にいう脚繋梁に該当する旨主張する。しかし、本件考案における脚繋梁は、支柱と連繋梁とに固着する部材として構成され、この「固着」という概念は、前述のとおり、別個の部材を離れないように結合することを意味するところ、被告装置の連結部材Jの傾斜杆部15は、支持脚2と固着しているとは考えられるものの、水平杆部11とは、一体成型されて一つの部材を構成しているものであつて、かかる状態もつて、水平杆部11と固着していると評価することはできない。したがつて、被告装置の連結部材Jの一部分である傾斜杆部15が本件考案の脚繋梁に当たるとの主張は、採用し難い。
3 以上によれば、被告装置は、本件考案の構成要件(二)及び(三)を充足しないから、本件考案の技術的範囲に属しない。
五 よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとする。
〔編註その一〕本件における実用新案権は左のとおりである。
考案の名称 床組連結固定装置
出願日 昭和五一年一〇月四日
出願公告日 昭和五六年一一月二四日
登録日 昭和五七年七月二九日
登録番号 第一四四四一一三号
〔編註その二〕本件考案の実用新案権登録請求の範囲は左のとおりである。
「基礎床面上に間隔をおいて支柱を碁盤目状に配し、支柱上に床パネルを敷設し、さらに各支柱は下部を隣接する支柱と連繋梁によつて連結し、又各支柱の上部に脚繋梁を固着し、該脚繋梁の他端を連繋梁に固着してなる床組連結固定装置。」
〔編註その三〕本件考案の構成要件は左のとおりである。
(一) 基礎床面上に間隔をおいて支柱を碁盤目状に配し、支柱上に床パネルを敷設すること。
(二) 右の各支柱は、下部を隣接する支柱と連繋梁によつて連結すること。
(三) 右の各支柱の上部に脚繋梁を固着し、該脚繋梁の他端は前記連繋梁に固着すること。
(四) 床組連結固定装置であること。
〔編註その四〕被告装置の構造は左のとおりである。
(一) 基礎床面1上に間隔をおいて支持脚2が碁盤目状に配置され、該支持脚2上には床パネル6が載置されている。
(二) 連結部材Jは、それぞれ水平杆部11及び傾斜杆部15を有し、広角状に曲折しており、その断面はL字状となつている。水平杆部11の端部は各支持脚2の下部に、また傾斜杆部15の端部は隣接する各支持脚2の中央上部寄りにそれぞれ取付金具7を介してボルト14により固定されている。
(三) 二本の連結部材Jは、それぞれ水平杆部11に長孔13を有しており、該二つの連結部材Jは、右長孔13に挿通したボルト14によつて連結固定され一体となつている。
(四) 床組連結固定装置である。